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不思議なプロセス

こういう仕事をしていると、不思議な出来事に出逢うこともあります。

デザインという仕事では現状の様々な問題点の分析と解決法の模索を一番最初に行います。問題の中にこそ答えのヒントがある、そして答えはオートマチックに生成されるためです。それが実用品で、大量生産品であればなおさらこの傾向は強くなります。この方法はデザイナー自身が思いも寄らぬ斬新な答えを生み出すことも多く、革新の原動力となっています。過去や現状への不満と、その解決への情熱が未来を生み出すと言い換えることもできるでしょう。

もちろん、こうした方法を用いないデザインも世の中には多いと思います。直感的なもの、感覚的な造形、あるいは衝動的なもの。。。様々なプロセスがあり、プロセスそのものにはどれにも優劣をつけることはできないでしょう。

しかし、そうした現実を踏まえた上でなお「不思議な出来事」と思わざるを得ないこともあります。じつは先日、新作のデザイン中にそれが起こりました。

僕の作業場には山のような試作品や試作部品がころがっています。とくに僕は素材や技術と格闘しながら、それらから学びながら作るタイプなので、なおさらです。情報はモノの中にあり、いつも自分は白紙であり無知なのです。

そういうわけで作業台はいつも試作品があふれていて掃除が大変です(汗)日課ですね。
先日も掃除をしていましたところ、試作品の山のなかからキラリと光る部品が出てきました。これ、じつは発注先が間違えて作ってしまったもので、使えないからそのまま放置していたものです。届いた時はとくになんとも感じなかったのですが、今日はなぜか輝いてみえます。

その前夜、別の製品の試作塗装の仕上がりをチェックしてました。1年前は不可能だと言われていた塗装が完成したのです。それ自体はあまりパッとしなかったのですが、その技術だけは記憶に残っていました。

今日、発掘した部品を見た瞬間、なぜか昨日の試作塗装の記憶が甦りました。すぐにスタッフに同じ塗装を施した部品を探させたところ、昨日チェックしたものとはまったく別の部品にその試作塗装を施したものが見つかりました。

これがなぜかピッタリと合ったのです。色、質感はもちろん、サイズまで。驚きました。専用設計なので、他の部品が合うなんてことは本当に稀なのです。

すぐにスタッフに足りない部品を組み合わせて、カタチだけでも完成形を作るように指示しました。数分後、その場の有り合わせの部品でそれはできました。できたのですが、何かが物足りません。先ほどの輝きが感じられないのです。う〜ん。

こういうときはしばらく寝かすに限ります。眼が馴れたり、閃いたりすることもあるからです。そもそも考え抜いて作るいつものプロセスのものではないですから、考えても無駄なんだろうな、と思ったんです。

ちょっとしょんぼりしながら作業台に試作品を置きました。すると、その隣に輝く部品が置いてあるではありませんか!!足りないのはこれだ!とその瞬間わかりました。すぐに取り付けてみると、本当にぴったりで、最初からこの形が完成形だったのではないか、というくらいに素晴らしいデザインです。

その部品は数日前にスタッフに取り寄せ依頼してた別件の部品でした。しかも加工に出す直前の本来予定していなかった状態で置かれていたんです。それがピッタリきたのです。

でき上がったものを並べると、どこにも革新性も独創性もないのに、誇張ではなくて本当に神々しいくらいの不思議な印象があります。ごく普通のデザインなのに、なにかが違うのです。ワケワカりません。

これは僕の作品なんでしょうか?僕は違うと思っています。不思議な偶然が重なり、自ら生まれ出てきたデザイン。僕はただ素材に導かれるままに組立指示したにすぎません。便宜上、世の中に出るときは僕の作品ということになってしまうのですが、本心は僕の作品ではないと思っています。

なんとも不思議なこともあるものです。


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